2016年3月2日水曜日

夕張で病院をなくした方が死亡率は下がるし医療費も下がったという件

2014年8月18日 12:24

元ネタ(森田洋之氏)
↑結論的にはかなりの誇張・歪曲の可能性がありそうな気がしました。

上記を数日前に見たのですが、ホンマかいなと突っ込みどころ満載でいろいろ調べてから書こうと思っていたのですが、平日は手が回らず週末にやることにしました(しかし予想以上に時間かかった・・・眠い・・・)。

いろいろ書く必要があるかなーと思っていたら、上記のネタについていい指摘しているブログがあったのでまずご紹介。

以下坪谷のコメント。ご意見ご感想お待ちしております。


1)死亡率の件
夕張のSMR調べてみました。
地域全体の死亡率を比較するときには、SMRが通常使われます。

”標準化死亡比について

死亡率は通常年齢によって大きな違いがあることから、異なった年齢構成を、 持つ地域別の死亡率を、そのまま比較することはできない。比較を可能にするためには 標準的な年齢構成に合わせて、地域別の年齢階級別の死亡率を算出して比較する必要がある。

標準化死亡比は、基準死亡率(人口10万対の死亡数)を対象地域に当てはめた場合に、 計算により求められる期待される死亡数と実際に観察された死亡数とを比較するものである。 我が国の平均を100としており、標準化死亡比が100以上の場合は我が国の平均より死亡率 が多いと判断され、100以下の場合は死亡率が低いと判断される。

標準化死亡比は、基準死亡率と対象地域の人口を用いれば簡単に計算できるので地域別の比較に よく用いられる。”




夕張のSMR

男性  女性

H.10   114.2 106.7

H15-19 120.2 103.7

H20-24 115.1 110.9


上記の推移を変化があったと解釈するのか微妙なところですが・・


ちなみに上記の数値に、この森田氏や、先駆けとなった村上氏の登場、夕張の財政破たんを挿入すると以下のような前後関係になります。


  H.10   114.2 106.7
H15-19 120.2 103.7

2006年12月25日、村上氏 夕張市立総合病院に応援医師(内科)として着任

2007年(平成19年)3月6日をもって財政再建団体に指定され、事実上財政破綻

2007年4月、夕張市立総合病院のスタッフ解雇を受けて、社会医療法人夕張希望の杜を設立し、理事長および夕張医療センター長に就任(センター長は2009年に退任)。
 2007年4月、経営破綻した夕張市立総合病院(もともと171床らしい)の再建策として、医療法人夕張希望の杜を自ら1億円の借金をして設立。「公設民営」の診療所方式(19床)と40床の老人保健施設を選択し、往診による在宅医療をすすめる[3]。あいた場所に託児所や娯楽施設を設置し、地域活性化の拠点を目指す。病院(20床以上)であれば5年間交付される地方交付税交付金を拒否して、交付金に頼らない新しい地域医療の方向性を示す[15]。

2009年(H21)に森田洋之氏が合流

H20-24 115.1 110.9

2012年(H24)5月22日 村上氏 夕張希望の杜理事長を辞任[12]。



どーですかねぇ?女性はむしろ悪化していますが。。

これに関しての森田氏は以下のように発言していたらしい。

”しかし森田先生がお示しした2010年時点でのデータで、いくつかの病気のSMR(Standardized Mortality Ratio 標準化死亡比)、つまり年齢で調整した上でのいろんな病気による死亡の比(全国平均に対する)を出したものがあるんですが、癌や心疾患、脳血管障害等が2005年以降、軒並み下がっておりました。
なかでも肺炎や胃がんのSMRの落ち込みが顕著で、これらはワクチンやピロリ除菌+内視鏡検査の影響が考えられます。疫学研究として発表したら面白いかも。”

なるほどね。
死因別のSMRでみていたのでしょうかね。
これは数字のトリックの可能性があると思います(JIKEI Heart的なw)。
医師が変わると死因が大きく変わってしまう可能性あります。
特に医師数が少ない地域(夕張)では、医師の変化の影響が大きいでしょう。
完全に想像ですが、早い話、在宅を開始してから多くの死因を「老衰」にしたのではないでしょうか。
それまでは、がんや心臓死や脳梗塞とされたものが、老衰になったのでしょう。
夕張は他の病院もなさそうなので、死亡診断を、村上・森田氏らが担っているとすると、そういうことも可能です(そこに彼らの作為があったかはさておき)。
肺炎球菌ワクチンの効果は即効性はあるかもしれませんが、一般的な予防医療の効果なんてそんな1-2年で出るもんでもないわけで、しかも総死亡のSMRがほとんど変わっていない(女性はむしろ悪化してます)ことがそれを物語っている気がします。
個人的には総死亡SMRでフォローすべきではないかと思います。


2)医療費の件

森田氏の言うところの「医療費」が何を指すのかよくわかりませんが、おそらくデータが利用可能なのは、市町村国保くらいなのでおそらくそれではないかという前提で議論します(+後期高齢者かな?)。
上述した死亡SMRのように、医療費も、医師の主観・裁量が大きい死因と同様、医師の裁量が大きいと思います。

いままで何度も書いたことがありますが、医療費を下げる最高の方法は、「医者・病院をなくすこと」です。
医療費は、医者がいないと発生しません。病院が無いと高額医療は発生しません。

夕張は、2007年に財政破たんした際に、病院のベッド数を約10の1に減らしただけではなく、透析をやめました。

田舎の市町村国保医療費のネックは透析です。
1人の透析患者を抱えるだけで、500万円/年くらいかかるようです。
財政基盤が弱い市町村国保にとっては、透析患者を抱えることが悩みの種というのは、市町村国保担当している人から聞いたこともあるくらいによく言われていることです。

さて、近所の病院が透析をやめたら透析患者さんはどうしますかね?
夕張に住んだまま遠くの病院に通院し続ける人もいたでしょうが、転居する人も結構いたのではないかと推測します。
特に若い人はこれを期に札幌に引っ越しとか考えそうです。
そうなると、夕張の国保の負担は減ります。
また、夕張に残り遠くの病院まで約2日に1回通院することを決断した人も、新たな遠い透析先へ通うことになるので、特に冬場はかなり透析へのアクセスが悪くなるので、透析の状態が悪くなることも容易に予想されそうです。
これは、死亡リスク上昇につながります。
国保の立場からすれば、死亡すれば医療費はかからなくなくなります。

内服薬もかなり減らし、積極的に後発薬にしたのでしょう。
いままでなんとなくやられていた採血やレントゲンや心電図もかなり減らしたのでしょう。
また、 病院規模を縮小したことにより積極的に在宅看取りを増やしたとのことで、当然医療費も減るでしょうね(死亡前の入院費が削減)。

このような積み重ねが医療費削減につながったのではないかと推測します。


<まとめ>
本当にかれらがやったことが死亡率を下げたのか、個人的には疑わしいと思います。
医療費については確かに下がったのかもしれませんが、負担をまわりの自治体に押し付けただけかもしれません。

夕張のこのようなドラスティックな改革は、北海道の田舎という島国的な環境で、病院が彼らの病院1つだけという「独占市場」であったので、このようなラジカルなことができたのだと思います。
北海道の田舎はともかく、本州の田舎ではなかなかマネはできないと思います。

なんだか最近医療費を論じるお医者さんが日本で増えている気がするのですが(俺もかww)、個人的には、医療費を強く論じてもしょうがないと感じています(その視点はもちろん重要なんですが)。
むしろ医療者が追及するべきは、住民の(医療・介護に対する)満足度の推移じゃないかなぁ。
極論ですが、(プロからみたら)医療や介護の質が下がっても、住民の満足度が上がっていれば、その変化は正当化される気がします。
質を積極的に下げろとはもちろん思いませんが、これから日本が求めるべきは、「更なる長寿」や「高度医療」ではなく、「満足のいく医療」じゃないんですかねー。



なお、最後にCOI(利益相反)的なことを記載しておきますが、私のことをご存知な人には説明する必要もありませんが、私は、

・できるだけ検査・治療はやらない方がいいと思っている
・現在の日本全国どこでもみんなが望めば”高度”医療にアクセスできちゃう環境、に強い疑問を感じている
・医療介護サービスは身の丈に合ったものにすべき(=サービス総額を減らすべき)
・もっと在宅看取り増やした方がいいと思っている 

という思想の持ち主です。

ということで主義・主張的には、夕張の人々(森田氏、村上氏ら)とかなり一致しそうです(実際に話したことないからわからないけど)が、今回の森田氏の内容はあまり賛成できませんでした。

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