2018年9月19日水曜日

社会的処方


坪谷は、日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)の代議員でもあり、学会の委員会の1つで(理事長直轄で特別な??)SDH検討委員会のメンバーをやっております。
その仕事(?ボランティア?社会参加?苦笑)の一環で、「日本プライマリ・ケア連合学会の 健康格差に対する見解と行動指針 平成 30 3 25 日」を作成し公開してある(ぜひ見てね)。

その中にも記載しているが、「社会的処方」という概念がある。
この「社会的処方」についてJPCAの秋季セミナーでワークショップを行った@大阪、ついでに備忘録がてらこちらに記載しておく。

なぜ今「社会的処方」か?

まず、健康の社会的決定要因(SDH)という概念の理解が必要。

SDHについての解説は本稿の趣旨ではないので詳細は割愛するが、要は、(医療者、特に医者?の多くが誤解しているように?)個人の健康は個人の裁量で決めることができる(自己責任論)、というわけでもなく、個人の健康は、結構自分の外側にある自分の及ばない要因も影響してくるんだよ、ということである。

で、SDHの1つに「社会参加」がある。
社会参加と健康の関連が近年注目を集めている。
(その関連のすべてが因果関係ではないだろうが、一部は因果もあるでしょう。私見です)
「社会参加 健康」で検索すれば、政府系の資料もたくさん出てくるし、本もたくさん出ている。


私の理解では、社会参加を、仕組みの中に落とし込むのが「社会的処方」かな。

「社会的処方」という言葉は、もともと英国(UK)からの輸入品を直訳したもの。

上記からこぴぺ(英語は読み飛ばしでもOKです。読みたい人だけどうぞ)。

Social prescribing, sometimes referred to as community referral, is a means of enabling GPs, nurses and other primary care professionals to refer people to a range of local, non-clinical services.
Recognising that peoples health is determined primarily by a range of social, economic and environmental factors, social prescribing seeks to address peoples needs in a holistic way. It also aims to support individuals to take greater control of their own health.
Social prescribing schemes can involve a variety of activities which are typically provided by voluntary and community sector organisations. Examples include volunteering, arts activities, group learning, gardening, befriending, cookery, healthy eating advice and a range of sports.
There are many different models for social prescribing, but most involve a link worker or navigator who works with people to access local sources of support. The Bromley by Bow Centre in London is one of the oldest and best-known social prescribing projects. Staff at the Centre work with patients, often over several sessions, to help them get involved in more than 30 local services ranging from swimming lessons to legal advice.
Social prescribing is designed to support people with a wide range of social, emotional or practical needs, and many schemes are focussed on improving mental health and physical well-being. Those who could benefit from social prescribing schemes include people with mild or long-term mental health problems, vulnerable groups, people who are socially isolated, and those who frequently attend either primary or secondary health care.

概念図は以下とか見て笑

Dr Helen Stokes-LampardChair of the Royal College of General Practitioners、日本語で言えば、王室総合診療医会?日本ではJPCAとかになるんでしょうか・・・規模も歴史も違いすぎるような気がしますが・・・)さんも、全人的な医療を提供するためにも「社会的処方」の重要性を以下のように述べています。(英語動画も、飛ばしでもOKです。見たい人だけどうぞ)

(坪谷の勝手な日本語訳&要約)
・社会的処方は新しいものではない。すでに行っているGPはたくさんいる。それを制度化しさらに広めていくべきだ。
・社会的処方は特別なものではなく、普通にやるべきもの。
GPは、地域の(広義の)多職種連携の指揮者である。
・私なら、自分が働く地域で、紹介できる地域活動30個あげれるわっ(どや)。

社会的処方の具体例は以下のP.2にある。結構何でもありな感じ。


社会的処方の実際について、ロザラム(人口は12万人)での様子が説明されている。(この英語スライドも別に飛ばしてもらってOK)


「社会的処方の目的は、慢性疾患(メンタルヘルスや認知症含む)の医療コストの増加に対応する(要するに医療費を減らす)ためですよ」と最初に明確にのべられている。
ここで、社会的処方のスキームを理解するうえで重要な概念(英単語)の紹介。
VCSThe voluntary and community sector
=地域の種々の活動組織、ですかね。
日本の文脈で言えば、地域の敬老会、婦人会、各種趣味の会、スポーツクラブ、NPOでもいいでしょう。そこらへんの総称。社会的処方ではVCSとても重要。
スライド後半に「社会的処方により、外来受診や入院や救急外来の受診などが軒並み半減している。孤立も半減。」とある。
これが日本で実現できればすごいことである。
金銭で置き換えると、すごい金額の節約になるのかも?とついつい思ってしまう(財務省も泣いて喜ぶ?)。

そんなにすごそうな社会的処方についての最新の?最強の?エビデンス(研究)はどうなっているかといえばそれは以下。
Social prescribing: less rhetoric and more reality. A systematic review of the evidence
Liz Bickerdike1, Alison Booth2, Paul M Wilson3, Kate Farley4, Kath Wright, BMJ open 2017 https://bmjopen.bmj.com/content/7/4/e013384

比較的最近の2017年にシステマティックレビューがある(助かる笑) ここから一部をこぴぺする。

Results We included a total of 15 evaluations of social prescribing programmes. Most were small scale and limited by poor design and reporting. All were rated as a having a high risk of bias. Common design issues included a lack of comparative controls, short follow-up durations, a lack of standardised and validated measuring tools, missing data and a failure to consider potential confounding factors. Despite clear methodological shortcomings, most evaluations presented positive conclusions.
Conclusions Social prescribing is being widely advocated and implemented but current evidence fails to provide sufficient detail to judge either success or value for money. If social prescribing is to realise its potential, future evaluations must be comparative by design and consider when, by whom, for whom, how well and at what cost.

つまり、まとめると以下のような感じ。
・これまでの研究は規模が小さいし、フォローアップも短い
・今後やるなら比較群を置いてね(既存研究はOne armだったりする)
・お金(コスパ)のことも考えてね 
→まだまだ検討(研究)の余地あるね!
ちなみに予断ですが、恐ろしいことに、UKは2000年という20年近くも前に、RCTを行っている。
これを見ると、社会的処方のほうが結果が悪い? でもよくよく本文を読んでみると多くの限界がありそう
社会的処方のコストが、26以下ならSPの勝ちだったともいえる。
UKGPチームがまともな成果を上げているともいえる。日本の一般的な開業医なら(以下自粛
・平均年齢は4045歳(ランダム化もうまくいっていない?)なので高齢者はまた別かも(若い人ほど薬剤での治療が功を奏しそう、高齢者ほど薬よりも
社会的処方じゃないかな。私見)。
・メンタルに課題がある人に限っている。高齢者の介護なら別かも。
20年前の研究なので、現在は異なる結果が出るかもしれない。

上記のRCTもそうですが、メタアナも、英語の論文のみ(おそらく英国の取り組みのみ?)。当たり前の話ですが、日本と英国は、医療費も人件費も、そして嗜好性も、地域の利用可能な資源も大きく異なります。
ひとことで言えば、社会の様子が大きく異なる。
研究者っぽく言えば、社会的処方についての英国の知見は、日本社会への外的妥当性は低そう。
なので、結局のところ、日本で社会的処方がいけるかどうかは、日本で検討する必要がある、という話になる。
しかも調べてみると、日本のほうが社会的孤立!という人が多い。
おいおい日本・・・と悲しくなりますが、逆に言えば、UKよりも日本のほうが良い成果が出るかもしれないですね。

最近こんな記事もありました。
認知症、薬に頼らずケア充実 うつなどが改善する例も

「とりあえず薬」ではなく、「とりあえず本人の話をよく聞いて、環境アレンジしてなんとかなるならそうしようよ」という記事ですが、まぁしごくあたり前ですよねぇ・・・
薬の処方はいわば対症療法、環境を整えてよくするのはむしろ根本治療に思えます。

で、この社会的処方、誰が処方するの?という話になります。
UKでは、医師(GP)が出して、link workerが面談・調整・フォローしてくれるようですね。
日本ではその仕事、誰がやるの?となると、なんとなくですが、ケアマネ?と脊髄反射的に考えてしまいます。
ケアマネでは(必ずしもそうではないですが現実はおそらく)相手が高齢者限定になってしまうので、ケアマネもいいですが、CLCさんが行っている生活支援コーディネーターなどもいいのではないかなと思います。
ここら辺の議論は、昨今厚労相が進めている、地域包括ケアの概念の拡大と、地域共生社会の融合の話にも合うかなと。
生活困窮者自立支援制度もうまく使えそうです。

ちなみに、博士学生の池田さん@PTより、実は既存の介護保険で社会的処方のようなものがあるのではないかと。その名も、社会参加支援加算 。
訪問リハと通所リハの両方で算定が可能で、120-170円(点ではなく円)のようですね。
まぁいいといえばいいのでしょうけど、正直こんな点数では、(H30年改定の遠隔医療と同じで・・・)現実としてはほとんど誰も算定しないというのが実情ではないですかね・・・。
より実行力のあるスキーム作りが求められます。

2018年10月2日追記
素晴らしい指摘です。
日本のメタボ健診や介護予防関係者に理解してほしい内容。


https://blogs.bmj.com/bmj/2018/09/27/kathryn-harrison-social-prescribing-leap-evidence/

2018年9月10日月曜日

大学の授業の在り方、特に医療系学部

決まった時間に、決まったたいして快適でもない部屋で、全体の公約数的な内容を、3流の大学教員が、多くの場合一方的に、90分ほど話すのが一般的な大学の授業。
まぁ昭和ならしょうがないか、と思うけど、今の時代、「好きな時間にネット動画見ておいて」でいいと思うが。
日本は、というか文科省は、いつまでこんなこと強要させるんだ。
もはやネット上で世界中の一流の授業がみれる。 
https://www.edx.org/  
しかも、好きな時間に、好きなだけ、しかも無料でみることができる。
しかもこれらはすべて、いま日本が必死に導入している英語の授業だ。

大学教員が、LIVEでしゃべる意味は、ネット上に相当する内容が無い時くらいではないかな。 
あとはもちろん、ネット上の動画を超えるくらいに素晴らしい講義をする場合ですね。

医学教育は、コアカリつくる暇があれば、コアカリに対応した授業動画を作って、それを全国の医学部生に開放すればいいだけの話。
教科ごとの試験はすべて日本共通のCBTでやればいい。
マニアックは試験もなくなるし、教員の負担もなくなる。WIN=WIN。
コストも大幅に圧縮。
技術的にもできる。
やらない理由がわからない。

 ローカルに存在するリアル教員の仕事は何かといえば、生徒に必要な支援をカスタムすること。
実習をすること。ハンズオンで教えてあげること。これに尽きる。
医学部など実務系学部の大学教員は、大学の外でよい。というか外がよい。
基本的な臨床現場での教育は、大学病院でない方がむしろ良い。
大学病院の医療が、社会や医療全体から見れば特殊すぎ。
大学の敷地の中だけで教育って、何やってんの?苦笑、という。


教授とか官僚幹部の偉い人たち、こういうことが理解できないのかなぁ・・・・?
文科省がイノベーション!とかスーパーグローバル!とかやっているのが滑稽すぎる。


NDB・介護DBからデータ提供、セキュリティ確保した上でより効率的に―厚労省・医療介護データ有識者会議??

NDB・介護DBからデータ提供、セキュリティ確保した上でより効率的に―厚労省・医療介護データ有識者会議


https://www.medwatch.jp/?p=22402

両データベースには、個人が特定されない形(匿名化)でデータ格納が行われ、第三者提供時にも「個人特定の可能性がないか」を有識者が確認するという、二重の「情報漏えい防止策」が図られています。
しかし、例えばNDBと介護DBの連結分析を行うことで、個人特定のリスクが高まるため、「積極的な第三者提供」と「個人特定のリスク排除」とを、どう両立させるかが、これまで以上に重要なテーマとなっているのです。

まだセキリティとか情報漏洩とか議論している。
理解に苦しむ・・・
議論の方向性がそもそも間違えてるとしか思えない。
ムダだ、何やっても絶対どうせいつか漏れる。日本のセキュリティレベルは低いんだから。
だから、漏れること前提として、年齢は5-10区切りにして、住所も行政区止まりにして、フリーに公開すればいいのに。
最初から公開してんだから、セキリティの議論もコストも不要だし、情報漏洩事件も起きない。
欧米のELSAやHRSは、最初から公開されています。
日本人の私でも無料で1日以内にデータダウンロードできましたけどね。

例えば申請者が、探索目的で広範なデータ提供を申請してきた場合、「研究目的とデータとの関連」が曖昧になりがちで、審査時間も必然的に長くなります。そこで、山本隆一座長代理(医療情報システム開発センター理事長)や石川広己構成員(日本医師会常任理事)、松田晋也構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)らは「研修の重要性」を改めて強調しました。例えば「NDBへのデータ格納様式」や「●●研究目的のためには、○○に着目するとよい」などの基礎知識が研究者に浸透することで、結果として審査時間の短縮が実現すると考えられるのです。

研修が重要、と書いてあるけど、それはそうでしょうけど、その研修を、どこかの東京の会議室でやるとかマジ愚の骨頂なので勘弁してほしい。
費用以上に、アクセス制限です。
その研修の内容はWEBで公開するんですよねぇ、当然。。。
松田先生ならきっとそう言ってくれると信じていますが。。。