http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26441345
Epidemiology. 2015 Oct 5. [Epub ahead of print]
この件に関して始めに表明しておくと、私としては、政治的思想については、ニュートラルな立場のつもりです(私は東電の株も持っていないし、知り合いもいません。また福島県立医大や福島県からお金をもらったりもしていません。友人はいますが)。
科学者、特に疫学者として、気になったのは、以下の文章です。conclusionでも同様の記載があります。
(原文:However, the magnitude of the IRRs was too large to be explained only by this bias)
"external comparisonでのリスク上昇はactive surveillanceでは説明するにはtoo largeである"
個人的には、この一文は、REFもなく、著者(ら)の主張(主観、想い)ありきの一文で、明らかに一線を越えた言い過ぎ(=結論ありき。)ではないかとに思えました。
私なら、以下でも議論されているような
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20150630
NEJMの韓国のactive screeningによる情報の程度の論文をREFして
「福島でのincidenceの見かけ上の増加は、screeningによる影響が大きそうだ。しかしそれですべて説明できるかは、適切な比較がない以上誰にもわからないだろう。」
と結論付けたいです。
この韓国の論文では、甲状腺のactive screeningを開始して、死亡率が変わらず、甲状腺がんのincidenceが30倍程度増えました。
この結果を解釈すれば
「mortalityに影響しないlatent cancerを不必要に見つけているだけである」
と思われます。
つまり、集団で見た時の増加分は、「不要な発見」(いわゆるやっている意味はない)と言えると思います。
その増加が、今回の福島のexternal comparisonとの比較の数字と(私には)同じ程度(or 差はさほどない)に思えます。
(まぁ結局、差があるかどうかの判断は、どこまで行っても主観からは逃げられないわけですが)
それはつまり、被爆の影響では甲状腺がんは増えていない、のではないかでしょうか。
掲載されているのがpublic healthの雑誌ではなく、疫学の雑誌なのでpolicy implicationはなじまないかもしれませんが、policy implicationとしては、私なら、
「active screeningの妥当性はわからない。大切なのは、患者の希望に合わせて、対応すること。発生した甲状腺がんすべてについて国が保障することだろう。」
などと締めくくりたいかなと思います。
この問題は答えが出ない問題なので、科学者は謙虚になるべきだと思います。
私のこの件についての解釈をまとめると以下です。
1)今回の被曝とがんの影響はどこまで行っても不明だろう(比較する適切なコントロールが存在しないので論理的に比較は無理)。
また、仮に適切なコントロール群があり適切に比較検討できたにしても、わかることは集団レベルとしての原発の寄与割合がわかるだけで、個人レベルでの原発の寄与はわからない=Aさんの甲状腺がんは原発のせいで、Bさんのは原発ではない、などとはわからない。
2)現実、福島で困っている・不安に思っている人はたくさんいる(おおむね被害者と言ってもよい?。ここらへんも議論はあるでしょう。)。
3)東電は私企業とはいえ、実質独占企業(≒国営企業的)である。また原発推進は国の政策でもあった。
4)一般に、自然災害の被害は、国全体で保険するようなものである(例:自衛隊によるレスキューはいい例でしょう)。
以上の1-4により、甲状腺がん関係の対応(相談・検査・治療などのコスト)は、国全体でカヴァーされるべきではないでしょうかね。
これは福島に限らず、今後日本のほかの地域で生じた場合も同様と思います。
一方で、「わからないことに関して、皆のお金は使わない」という立場も「謙虚」になるのかもしれませんね。
これは、リバタリアン的な正義の考えないのでしょうが、おそらく日本人にはフィットしないでしょうね。
私の理解している日本人的な考えは、「まぁわかんないけど大変だからみんなで助け合おうよ」なんだと思います。
まぁどちらも「正解」ではないと思います。
結局、最後は、政治判断になるのでしょう。
そして現実社会では、福島の医療費(の自己負担分)は、期間を区切って、当時の居住地域によっては無料に、というのが政治判断となりました(=国が面倒を見ることにしました)。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/fukushima/cat080/6921-119267#kikanentixyou
しかし震災後約5年が経過し、徐々に、所得が多い人から、自己負担は復活してきているようです(これは福島に限らずほかの被災地における医療費自己負担免除も同様です)。
この調子だと、おそらく数年以内(今から5年もたたないうちに=震災から10年以内に)に、他の日本国民と同じになるのではないかと思います。
もし、被爆による甲状腺がんの発生が、これから起こるとなると、その医療費(の自己負担)は、自己負担となるわけですね。
邪推ですが、その医療費を含めた責任問題について、国と東電を相手に民事訴訟が起きそうな気がします。。。
研究という面から議論すると、被曝と甲状腺がん発生の間の検討をしやすい環境ではないと思います(データの取得について)
原発事故後の放射線漏れによる健康被害の検討は、当たり前ですが、どこでもできるわけではありません。
前例はチェルノブイリくらいですが、当時は情報も適切に評価・公開されていないです。
今回の福島は、高い精度でその関連を検討して、記録に残すことが、日本にとどまらず全世界的に人類のためになるんじゃないかなーと、災害直後から思っていました。
が、残念ながら難しそうだなーと思う今日この頃です。
exposureのアセスメントが早急にできなかったので、その様な状況では、結局今後何をやろうが、関連はよくわからない気がします。
セカンドベストは、今回の津田論文のように、当時の居住地ベースでの、甲状腺がんの発生の検討になるのかもしれませんが、因果については難しいなぁと思います。
と思っていたら、当の福島県立医大から、この論文はおかしい!というお手紙が届いたようです。
津田敏秀博士らの論文の方法の誤りを指摘したLetterが「Epidemiology」誌電子版に掲載されました
2016年2月 5日
http://fukushima-mimamori.jp/news/2016/02/000248.html
上記の指摘内容は、私の上記の内容とは視点が異なるようです。個人的には、??な内容だと思いました。
以下のようなことが書いてあります。
”なお、甲状腺がんが健診で発見される状態になってからどれだけの期間が経過すれば、臨床症状が出て発見されるようになるのか(=潜伏期間)、については、まだ多くのことがわかっておらず、今後更なる研究が必要であると考えております。”
上記のような記載を読むと、じゃぁもう何年か待てば、因果関係に結論を出してくれるのか?という期待を持ってしまうような文章ではないかと思いますが、個人的には上記にも書いた通り、この問題については、いつまでも結論は出ないと思います。
政治もそうですが、わからないことは、わからないということも大切ではないでしょうかねぇ。
勘違いする人もいそうなので明記しますが、わからない、ということは、見放すことではありません。
「わからないけど、困っている人・心配している人には対応します」ではないかと。
0 件のコメント:
コメントを投稿